水くみのエドの話



 むかしむかしあるところに、ひなびた村があった。そこはたいそう暮らしやすかったが、一つ大きな問題があった。というのも、その村では雨が降らないと水が手に入らなかったのだ。

この問題を解決するために、長老たちは村に毎日水を運んでくる仕事を引き受けてくれる人間を募ることにした。


そして、名乗り出た二人と契約を交わした。長老たちはたとえ一人でも競争相手がいれば、価格を安く押さえることができ、また一方に支障があったときにも水に困らないですむと考えたのだ。



 契約を勝ち取った二人のうち一人はエドという男だった。

エドは契約が決まるやいなや外に飛び出し、鉄のバケツを二つ買ってきて、一マイル離れた湖に向かって駆け出し、せっせと水を運び始めた。こうして毎日朝から晩まで二つのバケツで水を運び続けたエドのもとには、すぐにお金が舞い込んできた。エドは運んできた水を、村の人たちが作った大きなコンクリートのタンクに流し込んだ。毎朝エドは村のだれよりも早く起き、必要なだけの水がいつもタンクの中にあるようにしなければならなかった。つらい仕事だったが、お金が入ってくるのがうれしかったし、この契約を勝ち取った二人のうちの一人にもなれたことを喜んでいた。

 もう一方のビルは契約を結んだあとしばらく村から姿を消した。


数ヶ月が過ぎてもビルは戻ってこなかった。エドは喜んだ。競争相手がいなくなったからだ。エドは水の代金を独り占めしてほくほく顔だった。

 ビルにはバケツを二つ買ってエドと競うつもりはなかった。その代わりにビジネスプランを立て、会社を興した。そして、四人の投資家を見つけ、実際に現場で仕事をする社長を雇い、六ヶ月後、建築作業員を引き連れて村に戻ってきた。一年後、ビルの会社は村と湖を結ぶステンレスのパイプラインを完成させた。

 パイプラインの開通を祝う式典の席上で、ビルは自分のところの水はビルが運ぶ水よりもきれいだとみんなに告げた。エドの水には土がまじっていると文句を言う村人たちがいることをビルは知っていたのだ。ビルはまた、自分の会社は一週間に七日、二十四時間休みなく水を供給できることを告げた。エドは週末は働かなかったので、水が運ばれてくるのは月曜から金曜までだった。そのあと、ビルはより高品質で信頼性のあるこの水の供給サービス対する料金をエドの料金の四分の一にすると発表した。村人は大喜びでビルが作ったパイプラインの蛇口に飛びついた。

 ビルとの競争に勝つためにエドはすぐに水の料金を四分の一に下げ、新たに二つのバケツを買った。そして、四つのバケツすべてにふたをつけて水を運び始めた。また、サービスの質を高めるために、二人の息子を雇い、交代で夜や週末も水を運ぶことをした。息子たちが大学に進むために村を出るとき、エドは息子たちこう言った。

「はやく帰って来るんだ。このビジネスはいつかおまえたちのものになるんだから」

 でも大学を終えた二人の息子はどういうわけか村には帰ってこなかった。その頃にはエドは人を雇うようになっていたが、それと同時に組合の問題もかかえるようになっていた。組合は賃上げと福利厚生の充実を要求し、さらに、組合員は一度に一つのバケツしか運ばなくていいようにしてほしいと求めてきた。

 一方ビルは、もしこの村に水が必要ならば、ほかの村にだって必要としているに違いないと考えた。そして、ビジネスプランを書き直し、世界中に散らばる未開発の村を訪れ、自分が考え出した高速、多量、安価、高品質の水の供給システムを売って歩いた。ビルの儲けはバケツ一杯分につきわずか一セントだったが、毎日の供給量は相当な量に達した。だから、ビルが実際に身体を動かして働かなくても、世界中で何百万人という人が一日にバケツにして何杯もの水を使い、そこから入るお金がすべてビルの銀行口座に流れ込んだ。ビルは村に水を運ぶパイプラインを建設すると同時に、自分のところにお金を流し込むパイプラインを作っていたのだ。
 
 ビルはそれからずっとしあわせに暮らし、エドの方はずっと必死で働き続け、お金に苦労する生活を続けましたとさ。おしまい。

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